■プロローグ■
 黒く艶やかな竜が、今、夜の帳に羽ばたいた。
 静かに、彼方の空へと消え行く巨体は、真夜中にまるで人目を避けるように翔び去ろうとしていた。その旅立ちを見送る瞳もまた同様に、隠れるようにそっと見守っていた。
 竜の消え去った夜空を見つめ、二人の人影はなお寄り添う。
「───きっと」
「ああ、必ず……」
 二人は肩を寄せ合い、只一言の会話に祈る思いを込めた。
 月も、僅かな星の瞬きさえも、闇に抱かれた静寂の夜。時折風の鳴く声だけが、重く響き渡るテラス。
 彼等はひとつの願いを込めて、彼の地に思いを巡らせる。


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