この世界に、たった一つの真実があるとするならば、それがあなたであって欲しい。
あなたと私が、この世で絶対と言える唯一の真実。そう胸をはって言いたいけれど、私は時々不安になる。
この孤独の城で、私はいつもたった独り。あなたが用意してくれた銀の月の光に包まれて、その胸の温もりを思い出す。
黒の三日月が、世界を支配たとしても、私は興味がない。ただ、黒の三日月の時代に、私はあなたと会うことが出来ない。それだけの為に、私はあなたの勝利を願う。
この戦いがいつから繰り返されているのか、あなたと出逢ったのがどれほど昔だったか、私にはよく分からないけれど、この城で目覚めると、次の戦いが始まったのだと思い知らされる。
この城で独り、月の光の届かない暗闇にいると、再び私を選んでくれるのか、とても不安になる。
眠りから覚めた時、この城にいる私を確認するたびに、不安と安堵が襲う。
眠る私の胸に、選ばれし者の刻印が施されていたら、目覚めた私は、何もかもが白く塗り替えられて、新しい私になってしまう。きっとあなたのことさえ覚えていない。
でも、もしも私に刻印が押されなかったら? 永遠に、この城に幽閉されてしう。あなたを想う私は、きっと正常ではいられない。正常でなくなった私を、あなたは哀れんで、少しでも心に留めておいてくれるでしょうか。
それとも、正常でなくなった私を、まるで汚い物を見るように瞬間の一瞥でもって、記憶の片隅へと捨てておしまいになるのか。
でも、その時、私は私の中の、私だけのあなたを見ているのかもしれない。私だけのあなたとずっと一緒にいる妄想が、現実となって私の中で育っているのだとすれば、もしかしたら幸せなのかもしれない。
いっそ、この闇が永遠に続くくらいなら、その方が良い。
目覚めて、刻印を施したのがあなたではなく、黒の三日月だったら。真っ白な新しい私は、きっとあなたに惹かれるように、黒の三日月を愛してしまうかもしれない。
何よりも恐ろしいのは、あなたが私を愛さないことではなくて、私があなた以外を愛してしまうこと。
だって、それは、私の真実が崩壊するということ。
それならば、いっそこのままこの城に留まっていたい。眠ることが怖い。あなたへの愛を失うことが怖い。
それでも私は眠らなくてはいけない。
この戦いに終止符が打たれるまで、私はこの不安と共にある。
銀の月に包まれて、私の真実がたった一つであるようにと願い、祈り、そして、戦いの終焉を待ちつづける。
どうか、この世で唯一の真実があなたでありますように。
銀の月が答えてくれたことはないけれど、それでも私は信じていたい。あなたを愛している私自身を。
次第に色あせる銀の月。
今宵もまた、不安の夜がやってくる。
どうか、あなたに出逢えますように。
……深い眠りに落ちてゆく。
全ては泡沫の夢でありますように……
終わり
あとがき
この話の主人公は、本編では「ルイナ」と呼ばれる少女。「ルイナ」の見ていた夢の中にこの舞台となる城が出てきます。
なんつーか、未来は遠いがきっとハッピーエンド。みたいな話を書く傾向があるんですが、この番外でも、そんな感じでしょうか。
本編「黒の三日月 銀の雫」は書きようによってはいろんな角度からいろんな話が掛けそうで、本当のラストシーンはとことん遠い未来のような気がします。