◇◇ 空を眺める子 ◇◇
小さな男の子が公園の原っぱで寝転んでいる。
空は澄んで、何処までも遠い。
時折、雲が形を変え、鳩か雀かが飛んでいく姿が、黒く影のように見える。   
ふと気づけば、少年の周りに一人二人と子供達が集まって、同じよううに寝転んでは空を眺めていた。 何をしているのかと、たまらずに聞いてみる。
退屈な空に、何を空想しているのか。
今時の子供がそんな想像力なんてモノを働かせているのだろうか。
想像の世界で遊ばずとも、より簡単に、想像をはるかに越えた映像を与える映像を見慣れた子供達が、わざわざ空を飛ぶ夢を見ることもないだろう。 わたしはそんなふうに考えていた。
 
── 子供達の数は、次第に増えていく。

綺麗な円を描くように、彼らは黙って大地に寝転び空を眺めている。
遠くに、犬の散歩をしている女の姿が見えた。そんな当たり前の景色がよりリアルなものに映る。
それ程にこの光景は異様を記していた。
静かに瞬きをする少年に、もう一度何をしているのかと尋ねた。 少年の眼球がユルリと動いて、ようやくわたしを捉えたようだった。 しかし、彼はすぐに空に視線を戻す。
 
言葉が通じないのだろうか、そんな疑問を持った時、唐突に少年が呟いた。
 
前世の過ちを見つめている」 と。
 
その口調は大人よりもむしろ落ち着いて、老齢者の貫禄さえ感じた。
 
同じ過ちを繰り返さない」
 
別の子供が言った。
 
何が足りなかったのかを瞑想している」
 
また別の声がする。
 
「いつかまた、空に帰るために」
 
最初の少年が言う。そして、彼らは二度と口を開かなかった。
 
子供達が空に見ていたものは、過去の己の姿。  
過ちを振り返り、再び繰り返さないために?
 
わたしはそこに居続けることが怖くなった。
わたしが逃げるように立ち上がると、無数の子供達が空を眺め、何十もの円を描いて寝転んでいる姿があった。
何処までも何処までも、子供達の輪が連なる中を、無我夢中で逃げた。
 
犬の散歩を楽しむリアルの情景を追いかけて、わたしは何時までも走る。
 
子供の輪が邪魔するように、果てなく広がっていく……。
足が縺れ、視界が狭まる。
空がより遠く高く広がる。
 
何処で間違えたのか、考えてごらんよ と、

子供達の声が 聞こえる──……。
*** ひかるあしあと ***
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