◆ 龍は東の空へ ◆
何かに吸い寄せられるように、目が覚めた。
大きな窓が目の前に広がっている。淡くぼやけた空が見える。
黄色が混ざった灰色。もっと白が強いかもしれない。
そう、ちょうど雨が止みそうな、降り出しそうな空模様。
大きな大きな窓に、広い高い空。
青、否、瑠璃だ。
その色は輝く瑠璃。
巨大な生き物が空を、窓を悠然と横切っていく。
輝く瑠璃は鱗だった。
龍だ。
龍が飛翔しているのだと理解するまで、私は瑠璃の色に目を奪われていた。
それほどまでに美しい青。

それが龍だと理解した今、窓から身を乗り出し、その姿をもっと求めた。
背の鱗は瑠璃。
腹は淡い檸檬色が艶を放つ。
靡く無数の髭はまるで金色の光。
私は龍を見た。
きっと、人生で最後の目撃だろう。
人生で最初の目撃は時を超えて伝え聞いた龍を想う。
昔の誰かもこうして龍を見たのだ。
私も龍を見たのだ。
どこから来たのか、どこへ行くか、そんなつまらない事は考えなかった。
青い龍、もう二度と出会えない。
だからこの目に、この瞼に、心に焼き付けておこう。
龍が東の空へ過ぎるのを見ていた。
太陽が、霞の中に生まれ出た、その最中へ消えていく姿を私は見ていたのだ。
龍はそこに、確かに存在した。

私は龍を見た。
青く輝く鱗は美しい。
これ以上の風景が、この世に存在するとは思えない。
私は龍を見た。




BGMは【Nocturne】様(リンクページよりとべます)よりお借りしています
曲名:夢のあとに(原題Apres un reve)
作曲者:G.Faure(1854〜1924)
編成:パンフルート、ピアノ
データ制作者:会沢優樹様【Nocturne】

*** ひかるあしあと ***
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