■ 月 城 ■
月城 月城
夜空の果てのもっと向こう
どれだけ歩けば 行けるのだろう
誰も知らない 月城の場所

月城 月城
天井にたゆとう海の底
咲き誇る花一輪
私ヲ摘ンデ……私ヲ摘ンデ……
そこから先は
何もない 宇宙(海)

月城 月城
幾つの命が沈んで消えた?
それでも僕は
──月城へ



「どうしても行くのかい?」
老婆の、寂しげに嗄れた声が、ガランとした部屋に響く。
少年は一度、たった一度だけ力強く頷いて見せた。
「ならばお行き。だが、忘れてはいけないよ。月城へ行った者は、二度と戻れはしないとね」


 それでも僕は夢を見た。銀に輝く月城の王様が、僕を呼んでいる夢。
王様はとっても綺麗な方。月の光より、尚も美しく輝く、銀糸のような長い長い髪を靡かせて、月光でもあれ程美しくは輝けないと思うくらいに優しい、黄金の瞳を持って、とろけてしまうような笑みで、僕を呼んでいた。
早くおいで、と。





「何を、見ていらしたの?」
 黄金にけぶる金の髪、金の瞳。あどけなさをそのままに、何時までも少女の微笑みを刻み付けた王妃の、柔らかく愛らしい白い手が、じっと空を見ていた竜王の手に触れた。
「過去を」
 彼は妻に向き直りそっと呟くように囁く。
「素敵な過去かしら? それとも……」
 少女のような竜王妃は、そのまま愛しい竜王の首に自らの腕を絡ませる。
「そうだね……」
 彼も日だまりのような笑みを向け、妻の腰に手を回し、過去を見ていたという視線を、今は愛らしい王妃の、無邪気な微笑みだけに注いでいた。




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